林ゆうやと旅する日本のクラフトビール ―― クラフトバー「ウォータリングホール」店長

インタビュー:ビール愛好家

林ゆうやと旅する日本のクラフトビール ―― クラフトバー「ウォータリングホール」店長

Words: Camille Miller / Photos: Rose Vittayaset

初めてパンクIPAクラフトビールに出合った10年前、「ホップと大麦、そして水だけでこんなにもフルーティーな一杯が生まれることに驚いた」と言うのは、代々木で人気のクラフトビールバー「ウォータリングホール」の店長を務める林ゆうやさん。

「当時、世界中のビールを試していて、パンクIPAのアロマティックな香りに圧倒され、クラフトビールの奥深さを実感した」と、当時を振り返る。

林さんの故郷は長野県松本市。リンゴやブドウなどの果物や清流が育むお米が有名なところで、日本のトップワイナリーや酒蔵が集まる県でもある。クラフトビールも国内でもっとも革新的なビールを生みだす県でもある。

世界最高のクラフトビールを求めて旅を続ける林さんの探求心は、「ウォータリングホール」の店内で味わうことができる。お店のウリとなっているのが、林さんのおススメの一杯。仮に、オーダーして出てきたものが黄金色に輝くビールだろうが濁りのある静岡産のヘイジーIPAだろうが、どんなビールであっても間違いがないからだ。

これまで13,000種類以上ものビールを試してきた林さん。いまでは、どうすれば最高の一杯を生み出せるかを、どの泡愛好家よりも知っている。それは日本のクラフトビールをめぐる旅の成果でもあるのだ。代々木にある「ウォータリングホール」で林さんに日本のクラフトビールについて話を聞いた。

インタビュー

- クラフトビールの素晴らしさのひとつに多様性があります。例えば米国のウエスト・コーストIPAはパンチの効いたホップの香りです。では、日本のクラフトビールの特徴はどんなところですか

日本人は模倣から学んで、自らのスタイルを築いていくことが得意です。建築であれば、古くは中国文化の影響を受け、明治以降は西洋文化の影響を受けて独自のものをつくりあげています。クラフトビールに関しても、はじめはドイツやイギリスから専門家を招聘していましたが、基本的な造り方を学んだ後には自分たちで開発し、独自のビール、独自の文化をつくりあげ世界に発信するようになっています。常陸野ネストや伊勢角屋麦、箕面ビールなど、受賞歴のある醸造所がその一例です。

- 今、クラフトビールの注目の産地どこでしょうか

東京以外であれば、静岡でしょう。静岡のクラフトビールは約20年前に「ベアード・ブルーイング」が沼津に醸造所を開設したことからはじまります。その後、修善寺に大規模な醸造所を建設し、常にアメリカンスタイルのビールを手掛けてこられました。以前は手に入れるのが困難でしたが、いまや定番の商品になっています。やがて、この醸造所の出身者が独自に事業をはじめ、静岡に醸造所やバーが増えました。彼らのおかげでクラフトビールの地元市場が成長し、今では東京の人が静岡に飲みに行くようにもなっています。

- 林さんの故郷の長野県のクラフトビールはいかがですか

長野県のクラフトビールは、関東地方で名を馳せています。もっとも有名なのが、よなよなエール。東京で飲めるのは、ほかに志賀高原ビール、南信州ビール、そして私の出身地の松本ブルワリー。味噌と醤油も含め、醸造文化はこの地域の伝統です。

- 旅行者が日本のローカル・クラフトビールを楽しむなら、どこを訪れるべきですか

先ほども言いましたが静岡県です。とくに「ウエストコーストブリューイング」のある静岡市をおすすめします。他の街と比べて、静岡市には醸造所直営の施設がたくさんあります。市内の用宗(もちむね)という港町には、クラフトビールの醸造所「ウエストコーストブリューイング」はもちろん、かつてのマグロ加工場を日帰り温泉に改築した「もちむね湊温泉」があります。クラフトビールと地元の名物であるしらす丼を、日本の漁港や日本の心ともいえる富士山を見ながら楽しむことができますよ。

それ以外にも、弥生時代の遺跡である登呂遺跡や駿府城など、歴史的な名所もいくつかあります。個人的にはサウナや温泉が好きなので、「サウナしきじ」は絶対に立ち寄りたいところです。富士の名水に浸かれる、日本一のサウナとして知られているんです。

- 他におすすめしたい醸造所はありますか

最近、三重県の伊勢市を訪れたのですが、伊勢には2年ほど前に発足した「伊勢角屋麦醸造所」があります。伊勢は古くからの観光地で、日本でもっとも尊ばれている伊勢神宮もあります。新型コロナウイルスの影響で状況が変わってしまいましたが、「伊勢角屋麦醸造所」は醸造所のツアーを行っていました。ここは倉庫街の巨大な工場を改装していて高さは30、40メートルあり、増築もしていてアメリカの巨大な醸造所のようです。「伊勢角屋」のいいところは、街のどこへ行っても商品を扱っているので、どこでも彼らのビールが飲めるところです。街自体がおもてなしの文化に溢れ、その街に醸造所もある。訪れるには最高の場所だと思います。

- クラフトビールに興味はあるが、何から試すべきかアドバイスをお願いします

まずIPA、ペールエール、小麦ビールなど、好きなスタイルのビールを見つけることから始めましょう。一度自分の好みを理解すれば、訪れるべき醸造所も簡単に見つかるはずです。例えばペールエールが好きなら、訪れるべき日本のビール醸造所は北海道登別市にある「鬼伝説」といった具合です。

- 国内で休暇を取るなら訪れたいのはどこの場所ですか

長野県の松本市ですね。生まれ育った場所なのですが、標高3,000メートルの北アルプスに囲まれた街は、築城400年以上にもなる松本城を中心にゆったりとした時間が流れています。街中には湧水がめぐり、山岳登山の玄関口でもあります。文化的にも伝統的な松本家具から「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」まで多様で、食文化も味噌や醤油、食品から日本酒、ワイン、ビールと豊かな醸造文化を誇っています。そのなかで、僕のお気に入りは、信毎メディアガーデンビルにある松本ブルワリーの「タップルーム 本町店」のテラス。雄大な北アルプスを眺めながら、ビールグラスを傾けるのは至福のひと時です。