森覚と訪ねる最高の日本ワイン ―― コンラッド東京エグゼクティブソムリエ

インタビュー:ソムリエ

森覚と訪ねる最高の日本ワイン ―― コンラッド東京エグゼクティブソムリエ

「ワインが好きだからソムリエになるのが普通でしょうが、私は違います。ソムリエになりたかったからワインを飲みはじめたんです」

いまや日本を代表するソムリエの森覚さんは20歳の時、たまたま目にしたドキュメンタリー番組にくぎ付けになってしまった。当時、日本大学で法律を学ぶ学生だった森さんが見た番組とは、世界大会に挑むソムリエを追ったもので、頂点こそ奪えなかったものの3位入賞を果たした石田さんの姿に心を揺さぶられ、森さんは人生の針路を決めたのだった。

大学を卒業した森さんは、ワインエキスパート、ソムリエ、さらにはシニアソムリエの資格を立て続けに取得し、道を究めるため単身オーストラリアに渡った。シドニー、アデレード、そしてナパバレーで研鑽を積んだが痛感したのは、オーストラリアではワインが生活の一部になっていることだった。「特にナパではワインがなければ食事もありません。日本とはまったく違っていた」と、文化の違いに衝撃を受けた。

その後、ホテルニューオータニ東京のフレンチレストラン、トゥールダルジャンから声がかかったことで日本へと戻るが、さらなる技術を求めて、今度はワインの本場であるフランスへと渡る。パリとブールジュの2つの都市で修業し、ワインへの情熱は高まるばかり。フランスでワインの知識とソムリエの技術を磨いていった。しかも、技を深めたのはワインについてだけではない。

それが、日本にはない「心づけ」との出合いだった。ユーモアたっぷりの笑顔で森さんは「パトロンであるお客様に満足してもらうことで、チップもよりよくなっていくでしょう。それが、私をよりよいソムリエに育てたのです」と話す。好奇心旺盛な世界のワイン愛好家たちとすぐに打ち解けるためには、ユーモアのセンスはソムリエにとっての必須条件だったのだ。

「かつての夢だったサッカーのワールドカップ出場は叶いませんでしたが、ワインのワールドカップには出場できました」と語る森さんは、2009年のアジア・オセアニアベストソムリエコンクールでの優勝を皮切りに、東京で行われた2013年の世界ソムリエコンクールに出場。準々決勝にまで進出した。そして2016年、アルゼンチンのメンドーサで開催された第15回世界ソムリエコンクールで今度は準決勝まで勝ち進む。この大会で、森さんは自身の憧れであった石田さんを上まわる世界の8位に入賞した。

森さんは、世界のワインに詳しいのはもちろんだが、日本ワインの愛好家でもある。全国を巡り、雑誌では日本のワイナリーについてのコラムも連載している。休暇が取れれば決まって訪れるのも日本のワイナリーだ。「ワイナリーが好きで、真夏に長野に行きブドウ畑で5時間過ごしたこともあります」という。特に、日本ワインの原点である山梨県がお気に入りだ。「この先も休暇をハワイで過ごすことはないでしょうね」と、笑う。

その日本ワインと産地について、コンラッド東京のレストラン「チャイナブルー」(ウォークインワインセラーがなんと8メートルもある)で、さらに話を聞いた。

インタビュー

- 東京でワインソムリエとして働く魅力は

さまざまな場所で働き、実に多くの方とワインについてお話しさせていただきました。東京にいる今も、世界中からお越しになるお客様と出会うチャンスがあります。ワインについて深く話すことはないかもしれませんが、どこからお越しになったとか、そんな話を伺いながら、母国である日本、東京にお迎えできるのは喜ばしいことだと思います。一般的に日本に興味をお持ちになって来られるのでしょうから、日本文化の紹介もできますからね。フランスではそうはいきませんからね。

- 日本のワインの世界での位置づけは

ソムリエの立場から言えば、日本ワインは私たちが紹介する世界では、多くの中のひとつにすぎません。日本ワインは他のワインほど有名ではないということですが、それは、いまだ多くの可能性を秘めているということでもあります。だから、必ずしも悪いことではないと思っています。日本のワインとワイナリーには、独自の存在感を生み出すチャンスがあるのです。

- 日本ワインを飲むのに、相性の良い料理はありますか

フランスのワインだと「このワインとこの料理は相性がいい」といった絶対的なルールがあります。例えば、シャブリは牡蠣と相性がいい。しかし日本では、日本酒でもそのような区別はありません。日本酒に合う食べ物はありますが、食材や料理のひとつひとつを指定することはありませんよね。恐れずに言えば、日本のワイン文化は発展途上ということです。ですから、日本ワインを飲む最良の方法もサバの塩焼きやスルメなど、日本食と合わせてみることだと思います。決まった相性がないのだから、好きなものを試して相性を探ってみてはいかがでしょうか。

- 世界のワインに比べ、日本ワインの独特な点などありますか

日本のワイン生産の方法はイノベーティブです。生食用のブドウを含め、日本は栽培に関して言えば理想的な気候ではありません。しかし職人技で、ブドウ農家の方々が栽培方法にイノベーションを起こしてきました。ブドウを保護するため、一房ごとに紙製の小さな傘を掛けたりしますね。また、欧州と気候が違うことから、ブドウの木がトレリス(ブドウ棚)からぶら下がる棚仕立てと呼ばれる方法が主流です。これにより換気が可能になり、かがむことなく簡単にブドウが摘ます。これは、世界の他のどの産地でも見られません。そういう意味でも、日本のワインは職人技の賜物ですね。

- 好きなワイナリーを教えてください

偶然にも、このトピックに関する本を書き上げたところでした(笑)。 北海道から九州、沖縄まで30のワイナリーを訪問しました。 山梨は、ナパバレーのように1日に3〜4つのワイナリーに行くことができますから、私のお気に入りです。さらに山梨は東京から2時間半ほどの距離で、宿泊しても素晴らしい温泉があるので、休暇を過ごすのには最高の場所です。

- ワインの産地で注目しているところはありますか

間違いなく北海道です。日本の他の地域に比べ雨が降らないので湿度が高くありません。さらに台風もほとんど来ません。 雪は降りますが、その時期にはブドウは畑にありませんからね。もしお金持ちでしたら北海道でのワイン造りをおすすめします。

- 休暇の目的地としての日本のワイナリーはどうですか

世界中どこのワイナリーでも、工場を見学し、ラウンジで試飲するかと思います。 ただ日本の土地は広くないので、ほとんどのワイナリーがブドウ畑の隣にあります。 もし、ブドウが育つ場所を訪ねるチャンスがあるなら、畑の真ん中に立ってみることをおすすめします。 ブドウがどのように成長していくかを見ることができますし、畑を抜ける風や夕暮れなど、他の国のワイナリーでは決しては味わえない楽しみに出会えるはずです。

- いま、日本ワインを飲むならば、どこで何を飲みますか

日本ワインの中心地である山梨を訪れ、甲州ワインを飲むでしょうね。甲州は、日本を代表するワインですから。