加藤穂菜美が恋した日本酒 ―― ANA(全日本空輸株式会社) 国際線客室乗務員

インタビュー:酒ディプロマ

加藤穂菜美が恋した日本酒 ―― ANA(全日本空輸株式会社) 国際線客室乗務員

ANAの客室乗務員として世界を飛びまわる加藤穂菜美さんは、日本酒のエキスパート。しかし、その奥深さと美味しさに気づいたのはお酒が飲めるようになって、ずいぶん経ってからだった。「度数の高いお酒」というイメージでしかなかった日本酒のイメージが変わったのは故郷の秋田県の酒蔵を訪れた時。生まれて初めて搾りたてを口にした瞬間から、彼女の心は日本酒に奪われてしまったのだ。

秋田といえば温泉と田園風景、そして米どころとしても知られているが、一人あたりの日本酒消費量は日本でもっとも多く、酒蔵も34軒を数える。そのなかで格別の存在感を誇るのが、日本でもっとも古い酒蔵のひとつである鈴木酒造店。この酒蔵こそ、加藤さんが「言葉にできないほど美味しかった」、一献と出合った場所だった。

「当時、日本酒について知っていたことといえば、米、米麹、水から出来ているということだけ。無味無臭に近い原料が、杜氏の職人技と微生物の力で、ここまで味わいが変化していくことに驚き、もっと日本酒について知りたいと思うようになりました」。

また、世界から訪れる乗客に日本酒をサービスする立場としても、「どのように日本酒がつくられているのか」ということを知っておきたいと思うのは自然の流れだった。彼女のモットーである「実際に自分の肌で感じる」ことから、加藤さんは日本酒の世界に自ら足を踏み入れていった。27ヵ国53都市を結ぶANA国際線のほぼすべての路線に搭乗していながら、自身の国の文化についてまだまだ学ぶことがあることに改めて気づかされた。

2020年10月一般社団法人・日本ソムリエ協会が主催する「酒ディプロマ」試験に加藤さんは合格。「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された2013年以降、日本酒への需要は増え続け、2018年には輸出額が2222億円を突破。海外で高まり続ける日本酒人気に対応するため、日本酒の知識を持ったエキスパートを育成する新たな認証を取得したのだった。

現在、加藤さんは空いた時間に浅野日本酒店の浜松町店によく通っている。「どんなおもしろいことが待ち構えているかと、考えただけでワクワクします」と語る加藤さん。100種以上の日本酒が揃う併設のバーで、どうやってつくられるのか、どの酒が好みに合いそうか、素晴らしい酒蔵はどこにあるのかなど、日本酒についての情報や知識を他のお客さんと共有することを楽しんでいるそうだ。

「日本には日本人も知らない魅力がまだまだたくさんあり、こうした発見が出来るのも旅の魅力ですよね」と話す加藤さんの表情は、意欲と気品さで輝いていた。

インタビュー

- 日本文化そのものでもある日本酒について、海外からの訪問者の多くが知りません。知っておくべきことがあれば教えてください

日本酒の原材料は、水、米、麹など、ごくわずか。 私が学んだ興味深いことのひとつは、さまざまな醸造の技術を使って、材料をコントロールしながら異なる風味を生み出す技でした。 だからこそ実際に日本酒の醸造所を訪れて、日本酒がつくられている過程をご自身で確かめて欲しいですね。

- 国際線で日本酒をサーブするとき、どんなところに気を付けていますか

日本を訪れる方のほとんどが、すでに訪れる目的をお持ちです。ですから機内でいかに日本酒に興味を持ってもらえるかを考えています。例えば料理とのペアリングでは和食に限らず、洋食やデザートとの組み合わせを提案します。日本酒が母国の料理と合うことに気づいてもらえれば日本酒を買ってみよう、酒蔵に寄ってみようという気持ちになりますから、そうした気持ちにつなげられるようなことに気をつけています。

- 日本酒がどのように造られるのかだけでなく、日本のどこに行けば地酒を楽しめるのか尋ねる方も多いと思います。海外からの訪問客にどの地域をおすすめしますか

兵庫、京都、そして奈良でしょうか。関西には日本酒のルーツが詰まっています。酒造りの神様を祀る神社もこの地域に集まっているので、お酒の神様を巡るツアーなどを計画してみるのも楽しそうですよね。伊丹空港、関西国際空港、神戸空港に加え新幹線も利用できるため、これらの(陸・空の)玄関口から酒蔵へのアクセスも抜群です。一年を通じて食と観光が楽しめる地域ですので、是非おすすめしたいです。

- 日本酒と観光という点で、各県の魅力を教えてください

まず兵庫は(日本酒製造で使われる米である)山田錦の生産量が全国一位。山田錦を使ったお酒のほとんどが、兵庫県産の山田錦を使っています。美しい川が流れていて、酒蔵も多いところです。また、観光地としても人気の京都には、日本酒の蔵のなかでも知名度が高い「月桂冠」などがあります。伝統的な懐石料理と日本酒の相性を楽しめる飲食店も多く集まっています。最後に、日本酒の発祥地という説もあるほど長い歴史を持つ奈良県。日本最古の神社のひとつと言われている「大神神社」は、酒造りの神様をお祀りしています。(全国で見られる)酒蔵の入り口に杉玉を吊るす風習も、この大神神社から始まったとされています。

- 酒蔵を訪れるのに最適な時期はいつでしょうか

一年中訪問することができますが、もっともわくわくするのは1月、2月、3月です。(新年を迎えた後、初めて酒蔵を開く)蔵開きが行われるのが、この時期なのです。

- 今、注目している酒蔵はありますか

気になっている酒蔵は「仙介」という銘柄を出す兵庫県の泉酒造です。阪神淡路大震災で蔵を焼失してしまい酒造りができなくなったのですが、香川の西野金陵に委託醸造することで出荷を続けていました。そこから西野社長の蔵再建の思いをかなえるべく、現専務の泉藍さんが奔走し、再建をなしとげた蔵というストーリーのあるお酒です。

- 日本酒を楽しむにはどういった方法がよいでしょうか

お食事と合わせることが、一番かと思います。2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたとき、日本酒や焼酎と一緒にプロモーションする流れが起きました。やはり和食と日本酒は切っても切れない関係ですので、まずは和食と合わせることから始めてみてはいかがでしょうか。

- 半世紀前と比べると酒蔵の数は急激に減っています。一方で海外での日本酒人気は高まり続けています。なぜ国外で人気が出たと思いますか

2013年以降、和食が世界で注目されたことで、和食を通して日本酒と出合う方々が増えました。そうしたお酒への興味は、日本酒そのものではなく、和食や酒器など関連するものから始まることも多いようです。例えば、You tubeで酒器についてのムービーを見たと私に話してくれた方もいました。美しい酒器を見て、中の飲み物はなんだろうと不思議に思い、日本酒に辿り着いたようですね。

- 国内で休暇を取る場合、どこを訪れたいですか

よく訪れるのは大阪です。以前、食い倒れの街である大阪で、たこ焼きと日本酒の組み合わせに出会いました。日本酒といえば和食に合うイメージですが、大阪名物のたこ焼きと合わせるとは、その土地ならではだなと、とても新鮮でした。皆さんも旅をする際には、訪れる土地がどのように日本酒を楽しんでいるかも注目していただけたら嬉しいですね。